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Dnevnoy dozor デイ・ウォッチ

ロシア映画 (2006)

映画『ナイト・ウォッチ』が作り出した光と闇の「異種」の世界の続編。主人公アントンが1992年に仕出かした失敗を修正するという結末がミソ。これによって、『ナイト・ウォッチ』で始まったストーリーは振り出しに戻る。

まず、原作小説との大きな違いについて指摘しよう。そもそも、映画『デイ・ウォッチ』は、同名の小説の映画化ではなく、小説『ナイト・ウォッチ』の「エピソード2: 仲間の中の仲間」を緩やかな土台とし、「エピソード3: ひたすら仲間たちのために」に出てくる「運命のチョーク」のアイディアだけを借りて全く別の物語として創作したもの〔映画『ナイト・ウォッチ』は、小説『ナイト・ウォッチ』の「エピソード1: 己の運命」に準拠〕。だから、『ナイト・ウォッチ2』とでもすべきなのに、無関係な小説『デイ・ウォッチ』の題名を借用してしまった。当時、小説は3部作だったので(現在では6部作)、映画も第3作まで作られると誤解されたようだが、映画『デイ・ウォッチ』が『ナイト・ウォッチ2』に過ぎないことを知っていれば、3作目など作られようがないことは初めから分かっていた。原作小説も読まずに映画の題名だけ見て勘違いすると、こうしたお粗末な結果となる。小説の「エピソード2」の最重要の登場人物は、マクシムという名の「野人」。未登録の光の異種で、正義感から、勝手に闇の異種を殺して回っている。映画では、それが、老女の生命力を吸い取るイゴールに変えられている〔原作を無理に歪めた結果、イゴールが「なぜそんなことをするのか」について、説明できていない〕。イゴールの老女襲撃が映画の冒頭だけに限定されているのに対し、小説のマクシムはエピソードの最後まで殺人を続ける確信犯。映画で原作と似ているのは、アントンが連続殺人犯の疑いをかけられ、オリガと体を交換するという点だけ。イゴールは、闇の「偉大な異種」ではないので、映画のようにザウロンの秘蔵っ子になったり、誕生パーティが盛大に開かれることはない。だから、最後のモスクワ破壊のクライマックスもない。また、イゴールはアントンの息子ではないので、親子関係の場面もない。一方、「運命のチョーク」は、全く別の目的(内容は説明されない)のためにスヴェトラーナに託されるもので、映画のようにアントンが14年前の間違いを正すために使うこともない〔そもそも「魔女による呪い」自体が原作にはない〕。チョークに関する様々なエピソードも、すべて映画の創作。こうして見ると、映画『デイ・ウォッチ』は、小説『ナイト・ウォッチ』の後半のごく一部だけを使い、内容のほとんどすべてを創作した全く別の作品と言える。  

その、創作映画『デイ・ウォッチ』の大まかな構成は、①「老女の背中に長い針を刺して生命力を吸い取る」事件が起こり、アントンとスヴェトラーナが現場に急行、実行犯は目出し帽をかぶったイゴールだった。②「光の監視人」の指導者ザウロンは、「偉大な異種」となるイゴールが殺人未遂で捕まらないよう、証拠となる目出し帽を「光」の側から奪取するよう世話役のガリーナに命じる。③ガリーナはアントンに目出し帽を渡すよう要求し、アントンは「光」の保管庫から盗み出すが、ガリーナは何者かに殺され、アントンが犯人にされる。④「闇の監視人」の指導者ゲッサーは、アントンとオリガの体を交換させ、「闇」からの追跡をかわそうとする。その時、オリガの体に入ったアントンは、スヴェトラーナに愛を告白する〔ここだけが、小説『ナイト・ウォッチ』の「エピソード2」と一致〕⑤アントンは、何でも望みの叶う「運命のチョーク」を手に入れ、イゴールを呼び出すが、スヴェトラーナとの愛を知られて嫌われた上、チョークも奪われる。⑥イゴールが「偉大な異種」となる誕生日のパーティに潜入したスヴェトラーナが、偶然からイゴールに血を流させ、イゴールが放った「魔の球」が炸裂し、モスクワの街が全壊する。⑦チョークを奪い返したアントンは、1992年に自分が魔女とした「契約」をなかったことにする。最後の結末は、『バタフライ・エフェクト』の使用されなかったエンディングに似ている。すなわち、1992年の段階で、偶然街ですれ違ったアントンとスヴェトラーナは、『バタフライ・エフェクト』のエンディングのように「すれ違って去って行く」のではなく、使用されなかったエンディングのように「既視感から声をかける」。『ナイト・ウォッチ』に比べて特撮は派手になったが、個々のエピソードの説明不足が目立ち〔底が浅くて奇をてらっているだけ〕、端役の肉屋を「ガリーナの真の殺人犯」にするなど興味を削ぐ展開もいただけない。イゴールの登場場面は、『ナイト・ウォッチ』より少ないので、あらすじでは、イゴールに限定して紹介する。

イゴール役のドミトリー・マルティノフ(Dmitriy Martynov)は、撮影時14歳。前作に比べてかなり大人びている。


あらすじ

2006年のモスクワ。訓練生スヴェトラーナを乗せてアントンが黄色の有蓋トラックを運転している。その時、無線が入る。「全ロシア博覧センター〔ВДНХ〕駅近くの車はいますか?」〔前作で、イゴールが地下鉄に乗車した駅〕。アントンは近くにいたので、「5分で行ける」と応える。無線で情報が伝えられる。「人間に対する襲撃報告。以前と別の老女。以前と同じパターン。長い針を犠牲者の肩から挿入し、生命力を吸い取る。正体不明。非常に危険」。アントンは、相手がまだ訓練生なので、「俺と一緒じゃなきゃ異界には入るな。ゆっくり動き、息は深く吸え。第2レベルは立入禁止だ」と注意する〔「第2レベルの異界は時に危険だ」という日本語字幕は間違い〕。「どんなとこ?」。「知らん。入ったことがない」〔アントン程度の異種では、第2レベルには入れない〕。現場に着くと、倒れこんだ老女を見つけたスヴェトラーナが車から飛び出して助けに向かう。現場には針も落ちている。スヴェトラーナは「ЗЛОЙ(邪悪)」と書かれた紙パックからストローで吸っている覆面男を発見する〔老女の生命力が紙パックに入り、それを飲んでいるらしい〕。スヴェトラーナは、男に向かって猛ダッシュ、アントンは後手にまわる。覆面男は異界に逃げ込む。スヴェトラーナも異界に突入。アントンが遅れて到着した時、2人はガラスを着き抜けて第2レベルに入って行った。アントンには、そのガラスを透過できない。アントンは、ガラス越しに戻れと合図し、それに気付いたスヴェトラーナが戻りかけると、背後から目出し帽をかぶった男が近づき(1枚目の写真)、長い針をスヴェトラーナの背に刺す。スヴェトラーナが振り向いて目出し帽をつかみ取ると、犯人はイゴールだった(2枚目の写真)〔イゴールが老女の生命力をむさぼるという設定は非常に不自然⇒理由が全くない〕。それをガラス越しに見たアントンはびっくりする。イゴールは逃げ出すが、スヴェトラーナが照らした「闇を攻撃する懐中電灯」の光で吹き飛ばされる(3枚目の写真)。イゴールの被っていた目出し帽は、唯一の証拠品として後から駆けつけた「夜の番人」の仲間によって回収される。
  
  
  

イゴールは、吹き飛ばされて埃まみれの姿でザウロンの元に戻る。彼は「偉大な異種」なのでVIP待遇だ。「どうした」と訊かれたイゴールは、「偉大な異種だけが、第2レベルの異界に入れるって言ったじゃないか! 武器をくれよ!」と不満をぶつける〔スヴェトラーナも偉大な異種〕。そこに、「夜の番人」から苦情の電話が入る。「数分前、全ロシア博覧センター駅の近くで殺人が阻止されました。闇の者が、衆人環視の中で人間を襲ったのです」。そして、遺留品を残していったと告げる。ザウロンは、その場にいたガリーナを、「君は、自分の生徒に、殺人に関与することは犯罪行為だと教えていないのか?」と叱咤する。イゴールは、「証明できないよ」と言うが、ザウロンはイゴールを見据えて(1枚目の写真)、「帽子は?」と指摘する。イゴールは、指摘されて初めて目出し帽がないことに気付く。「じゃあ、どうするの?」。ガリーナは、「帽子が問題でしたら、盗めばいいのでは?」と言うが、逆に、ザウロンから「朝までに手に入れろ」と命じられ、困ってしまう。証拠品が置かれている光の保管庫に潜入するのは不可能なので、「どうやって?」と尋ねる。ザウロンは、イゴールの顔を見ながら、「それじゃあ、パパに頼んでみよう」と指示する(2枚目の写真)〔ザウロンは、格下のガリーナには、まともに顔を向けて話しかけない〕。レストランの厨房の一角でイゴールと2人きりになったザウロンは、機嫌よく、「さあ、食べろ。明日は大事な日だ。英気を養わないと」と言う〔明日はイゴールの誕生日〕。「明日は何なの?」。「大勢の客が来る。プレゼントもあるぞ。欲しいものはあるか?」。イゴールはザウロンが手に持っている「魔の球」をじっと見る。「まだ渡すのは早い」。「いらない」(3枚目の写真)。「今に渡してやる。嫌でもな」。
  
  
  

ガリーナは、アントンの携帯に電話をかけ、「私はイゴールの先生、ガリーナよ。あなたの息子が帽子を失くして…」まで言ったところで、「番号違いだ」と切られる。それは、アントンがスヴェトラーナと中華食堂にいたから。その後、泥酔したアントンは雪道を歩いて自分のアパートに向かう。玄関まで辿り着いた時、待っていたガリーナが車を寄せて話しかける。「いいこと、息子さんが困った状況なのよ。処刑されるわ」。「番号違いだと言ったろ」。「何てひどい言い草なの? 明日は、イゴールの誕生日なの。忘れた? プレゼントをあげなさい」。「どんなプレゼント?」。「帽子よ」。アントンは、「助けることはできない」と、きっぱり断る〔この後、ガリーナは殺され、疑いが最後に会ったアントンにかかる〕。しかし、アントンはすぐに「光」の保管庫に向かう。そして、鍵番が別室のTVでサッカーの応援をしている間に、鍵を盗んで中に侵入する(1枚目の写真)。延々と並ぶスチール棚の上から覗いて帽子のある棚を見つけると、持ってきた鍵で解錠し、中からイゴールの目出し帽を取り出し(2枚目の写真、矢印)、持ち去る。アントンは、イゴールに対して負い目があるので、結局、助けるためなら何でもしてしまう。
  
  

先の場面から上映時間にして50分以上イゴールの出番はない。その間に、アントンはガリーナ殺しの容疑者となり、ゲッサーの指示でオリガと体を交換したり、「運命のチョーク」を手に入れようとしてサマルカンドに行こうとする。結局、観ていて幻滅したのだが、チョークはアントンがいつも行く中華食堂の主人が持っていた。アントンはチョークを手に取ると、食堂の小さな黒板に「イゴール(Егор)」と書く(1枚目の写真)。すると、背後でガラスを叩く音が聞こえる。アントンが振り向くと、そこにはイゴールがいた(2枚目の写真)。アントンはガラスに駆け寄る。そして、店の入口のドアを開けて、イゴールを中に入れる。「どうやってここに来た?」。「ちょうど通りがかって、覗いたんだ」。アントンは、「ちゃんと効いたんだ!」と感激する(3枚目の写真)。「何が効いたの、パパ?」。「チョークさ」と、チョークを見せる。「戻ってきてくれて嬉しいよ。体がえらく冷たいぞ。寒いだろ」。アントンは自分の上着をイゴールに着せてやる。アントンは、店の主人に、「息子と会えたんだ、何か美味くて熱いもの作ってくれ」と頼むと、店の奥に行く。
  
  
  

アントンがいなくなった時、アントンの上着に入っていた携帯が鳴り出す。イゴールは電話に出る。「もしもし」。かけてきたのはスヴェトラーナだった。「アントン?」。「誰?」。「私よ、スヴェトラーナ」。「スヴェトラーナ。彼には家族がいるんだ。息子がね。もうかけてこないで」(1枚目の写真)。イゴールは電話を強制的に切り、ポケットに戻す。その時、アントンが作りたてのプロフ〔ウズベキスタンのピラフ〕を持って戻ってくる。「米のプロフだ。手で食べるんだ」。プロフを口に入れたイゴールは、「パパ、ウチで一緒に食べない?」と訊く。この時、携帯がまた鳴り出す。「ウチで?」。「僕や… ママと」(2枚目の写真)。「イゴール、一緒には行けない。俺には別の人生がある。分かってくれ」。イゴールはいきなり立ち上がると、鳴っている携帯を取り出し、床に叩きつける(3枚目の写真、矢印は携帯)。そして、そのまま店を飛び出して行く〔イゴールは、いつの時点でか、アントンが上着に入れていたチョークをこっそり奪っていた。だから、脱ぎ捨てられた上着をアントンが着た時、チョークは消えていた〕
  
  
  

イゴールは一旦アパートに戻り、その後、母に隠れてザウロンのマンションに行く。世話係の女性に髪をカットしてもらいながら、「ザウロン伯父さん、なぜ僕たちは闇の側なの?」と尋ねる。「イゴール、闇は欠点を隠してくれるんだ。そして、欠点は誰にでもある」(1枚目の写真)「何でも望み通りにする余裕も与えてくれる。真になりたい者にもなれる」。この時、カットしている場面が映るが、カットしている女性は鏡に映らない(2枚目の写真、矢印は宙に浮いているハサミとクシ)。イゴールは、「これ見つけたよ、ザウロン伯父さん。運命のチョークだ」と言って、チョークを取り出す(3枚目の写真、矢印はチョーク)。その時、ゲッサーから電話が入る。「ザウロン」。「何だ?」。「チョークを手に入れたか?」。「いいや」。「それに触れる権利はないぞ」。「分かってる」。ザウロンは、部屋にいたアリッサ(女性)にチョークを渡すようイゴールに指示する〔確かにチョークに触れてはいない〕。イゴールは、「これまでの人生で、過ちは一つもないの?」と訊く〔運命のチョークは、過ちの訂正にも使える〕。「いいや、後悔しないだけだ」。
  
  
  

この辺りから脚本は破綻し、個々のエピソードに脈略も論理性もなくなる。チョークをもらったアリッサが、小説の「エピード1」だけにチラと出てくるコースチャになぜか惹かれてチョークで呼び出す。アントンは、チョークを取り戻そすためにイゴールの誕生会に潜入しようとして、闇の異種の顔に変装して会場のホテルに行くが、すぐに見破られる。主催者のザウロンは、血まみれになったアントンを敢えて会場に入れ、なぜか祝辞を述べさせる。そして、乾杯で薬入りの酒を飲ませるが、その割には泥酔状態と同じ。会場には、14年前にアントンが訪れた魔女もいる〔かつて訪れた魔女のアパートが半壊状態で残っていることを観客に知らせるため〕。誕生会に呼ばれていないゲッサーは、不思議なことに、いつの間にか会場の写真係になっている。コースチャの父親の肉屋〔小説では建築家として1行で紹介される端役〕が汚い身なりで突然現れ、アントンにガリーナ殺しの真犯人だと告発される〔なぜアントンが犯人を知ったかは説明されない/この時、肉屋が手にした木製の短剣は小説でマクシムが使うのと同じもの〕。肉屋が告白する殺人の目的は意味不明〔ガリーナと無関係〕。肉屋は、その場で異端審問官に連行される〔恐らく死刑/小説のマクシムは異端審問官になる〕。ザウロンはコースチャを木の短剣で殺し、アリッサは錯乱状態になる。そして、アントンに失恋してさまよっていたはずのスヴェトラーナが突然ホテルに乗り込んでくる。こうしたメチャメチャな筋書きの中で、イゴールに関連したシーンをピックアップしてみよう。1枚目の写真は、アントンが無理矢理 祝辞を言わされる場面。ザウロン:「今日が誕生日だということを忘れてたのか? この恥知らず。何か言ってやれ。あの子はお前を待ってたぞ」。2枚目は、その言葉を待つイゴール。アントン:「俺は、お前の幸福と健康を祈ってる」。イゴール:「それだけ?」。「人生のすべてが、うまく行くように。残りは後で。ここを出よう」。「ダメだ。今、言って。『後で』じゃ、遅すぎる」。「お前に望むことはたった一つ。許すことを学んで欲しい」。ここで、ザウロンがスピーチを止めさせ、薬入りのワインをアントンに飲ませる。3枚目の写真は、薬で泥酔状態になったアントンが、マイクを奪って変な歌を口ずさむのを聞き、半分見放した時のイゴールの一瞬の表情。これ以後、イゴールにとっての関心事はスヴェトラーナだけになる。
  
  
  

会場に乗り込んだスヴェトラーナは、アントンを見つけて声をかけるが、「帰れ。家に帰るんだ。後で、なにもかも説明する」と言われ、拒まれたと思って涙を流す。それをザウロンとイゴールは端でじっと見ている。イゴールは、「この前、異界であの女に針を刺した。今なら飲めるよ」と言う(1枚目の写真)。針を刺すこと自体、小説には出て来ない話なので、「数日前に刺した針がなぜ今も有効なのか」が全く理解できない。イゴールが「邪悪」の紙パックにストローを挿入すると、それはスヴェトラーナの背中にかつて刺された針に直結していて、スヴェトラーナから生命力を奪っていく(2枚目の写真、矢印は紙パック)。スヴェトラーナの顔は、一旦は、老女のようになる。しかし、オリガが携帯に電話をかけてきて勇気付けると再び元気になる〔生命力を吸われたのに、なぜ?〕。ザウロンは、「練習だ」と言ってイゴールに「魔の球」を渡し、彼女との対決を命じる。オリガは、「そこを出なさい。罠よ。イゴールは避けるの」とアドバイスするが、時すでに遅く、背後にはイゴールが「魔の球」を持って待ち構えていた。イゴール:「何が欲しいの?」。スヴェトラーナ:「アントンよ」。「僕も欲しい」。「話し合いましょ」。「イヤだ。あんたは嘘付きだ。僕から奪いに来たくせに」。「彼は、あなたを とても愛してるわ」。「あんたのこともだろ」。そう言うなり、イゴールは「魔の球」をスヴェトラーナ向けて投げつける(3枚目の写真、矢印は「魔の球」)。スヴェトラーナは素早く避ける。
  
  
  

会場では、ザウロンが、「偉大な異種の誕生だ」と宣言し、闇の力が世界を支配すべきだと参加者を扇動している。その時、廊下では、スヴェトラーナがイゴールを振り払い、勢い余ってイゴール床に倒れる(1枚目の写真)。立ち上がったイゴールの鼻から、一滴の血が床に落ちる。それを注視していた参加者からは、一斉に「血だ!」」という歓声が上がる。「偉大な異種」が血を流す時、光と闇の決戦が始まるのだ。イゴールがスヴェトラーナに向かって2度目に投げた「魔の球」は、とっさに顔を覆ったバッグで直撃は免れる。しかし、スヴェトラーナは爆発的な力で吹き飛ばされる。かろうじて立ち上がったスヴェトラーナに、イゴールは渾身の力をこめて3度目を投げつける(2枚目の写真、矢印)。「魔の球」は途中で分解し、1つはスヴェトラーナの両目をマスクのように覆う。残りはさらに細かく分裂し、あらゆるものを破壊してホテルの窓から四散し、モスクワの街に飛び出していく。真っ先に破壊されたのは、モスクワのシンボル的存在のオスタンキノ・タワー〔高さ540メートルのTV塔〕。全ロシア博覧センターに隣接した遊園地にある「モスクワ850」の観覧車〔高さ73メートル〕も外れて転がっていく〔観覧車は脆い鉄骨製なので迫力はない〕。その他の詳細は写らないが、一瞬のうちにモスクワは廃墟と化す。アントンはアリッサからチョークを奪い、半壊した魔女のアパートに行くと、剥き出しになった部屋の壁に「НЕТ(No)」と書く。これは、かつて魔女が、アントンに流産の罪を背負うかと問い質した時に、同意してしまった過ちを訂正するため。すると、場面は1992年に戻る。アントンは、出奔した妻を取り戻すことをあきらめ、魔女のアパートを出る。だから、アントンは異種にならない。そして、帰る途中でスヴェトラーナに出会い、何となく見覚えがあるような気がして声をかける。この新しい世界では、スヴェトラーナも癇癪を起こして渦を作らないだろうから、彼女も異種にならないだろう。従って、続編は作りようがなく、2作で完結となる。
  
  
  

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